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もう一つの葡萄の思い出

33年前、私が工務店に勤めていた当時、借家を10戸,結婚したばかりの娘さんと息子さんの住宅の計12戸を2ヶ所に分け計画し、1年半後に完成しました。その後、建替え,増築,改修などいろいろ仕事をさせて頂き、今年も4戸の借家を塗装工事に入りました。当時から道路向かえには老人ホームがあり、そちらから借家の工事中、大柄でどこか気品の感じられるお婆さんが借家の現場横を毎日決まつた時間杖をつき、ゆつくりとした足取りで散歩をする姿を見かけました。 いつからか顔が合う度に私と挨拶を交わす様になり、ある3時の休憩の時だつたでしょうか、何人かの大工さん達と焚き火の周りで立ち話をしていると、お婆さんが散歩の途中私達のところで立ち止まり、「これ食べなさい」と胸の奥から取り出したものが小さな葡萄の房でした。

誰も受け取ろうとしないので、私が受け取りお礼を伝えたところ、お婆さんは私が食べ終わるまで隣で穏やかな表情で私の方を見ていました。 今思うと私は当時20代後半だつたのでお婆さんから見ると孫くらいに思つたのでしょうか。         頂いた葡萄の一房は老人ホームで昼食に出たものをわざわざ胸に仕舞い持つて来てくれた様なのです。 葡萄の味は思い出すことが出来ませんがお婆さんのやさしいく穏やかな表情と、一粒口の中に入れた時、葡萄の暖かさが忘れられません。

何時からか、工事が終る頃にはお婆さんの散歩をする姿は見かけることが無くなつていました。

画像1~「葡萄」の思い出。 借家塗装工事。

画像2~本当は3年前に工事を行う予定だつた我が家の改修工事。 自分でいたずら程度に樹脂モルタル塗り。

画像3~畑で見かけた4兄弟。









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